地盤情報データベースを用いた広域3次元地質構造モデルの構築
-大阪平野の上町断層帯表層地質の例-
櫻井 皆生
<概 要>
本発表では,地盤情報データベースから広域3次元地質構造モデルを構築する方法について,大阪平野の上町断層帯表層地質の3次元モデルを例に挙げて紹介する.地盤情報データベースは建設事業の設計・施工・積算などに利用されるほか,ボーリングデータが高密度に得られる利点から,沖積層の3次元的な分布の解明やその基底面モデルの作成などにも用いられている.大阪平野を中心とした地域では,関西圏地盤情報データベースが構築・運営されており,これには現在約6万本余りのボーリングデータが収録されている.
大阪平野中心部の上町台地周辺の地下には,活断層の上町断層帯が分布しており,その断層運動によって構造物の支持地盤や工学的基盤となる大阪層群~上部更新統(いわゆる洪積層)が変形していることが知られている.これまでは,データベースのボーリングデータが連続的に得られる高速道路などの線状構造物沿いなどで地層の変形構造が断片的に把握されていたが,その3次元的な形状は明らかにされていなかった.今回構築した3次元モデルは大阪層群~上部更新統中に繰り返し挟まれている海成粘土層の基底面のサーフェスモデルで,このような広域の3次元地質構造モデルは建設事業の計画立案の場面などでの利用が見込まれる.
位置図と断面図作成基準線
赤点はボーリング地点
<方 法>
関西圏地盤情報データベースのボーリングデータはXML形式ではないため,3次元モデル作成ソフトウェア上でボーリング柱状図を再現することができない.そこで,関西圏地盤情報データベースの断面図作成機能を使って,東西方向と南北方向に200m間隔のメッシュでボーリング柱状図列からなる断面図を作成し,それらに現れる地質構造を解析した結果をもとにGISを用いて3次元モデルを構築した.
1.ボーリング柱状図列からなる断面図の作成
関西圏地盤情報データベースの断面図作成機能では,ボーリング検索画面でボーリング地点を連続して選定すると,自動的に柱状図列からなる断面図が作成される.データベースのボーリング検索画面に東西南北200m間隔のメッシュで断面図を作成するための基準線を設定し,基準線を中心とした幅200mの帯の中で東西方向が西から東に,南北方向が北から南に向かって順にボーリング地点を選定した.その際,選定したボーリング地点の配列が直線状になるよう隣り合うボーリング地点間を結んだ直線が基準線に対して45°を超えないように配慮した.作成した断面図は東西方向が計113枚,南北方向が計71枚である.断面図を200m間隔の基準線に沿ってメッシュで高密度に作成した理由のひとつは,データベースからできるだけ多くのボーリングデータを網にかけてピックアップするためである.
2.断面図の地層対比
断面図の地層対比には,大阪層群~上部更新統に繰り返し挟まれている海成粘土層(Ma)の基底面を用いた.大阪平野に分布する海成粘土層はおもに内湾の泥底に堆積した地層で,その基底面は海進期に湾が広がったために発生した波によって形成された波浪ラビーンメント面である.ラビーンメント面とは,海水準が連続して上昇しているときに海底面が侵食(外浜侵食)されることによって沖側に形成される平坦面のことで,変形していない初生のラビーンメント面は,沖-陸方向の断面では沖側に緩く傾斜した直線で描くことができる.
地層対比の対象とした海成粘土層の層準はMa3~12層である.データベースに収録されているボーリング柱状図からは層準や堆積環境に関する情報は得られないので,ボーリング柱状図の海成粘土層の識別と層準の決定には,大阪平野の地下地質の標準層序となっているOD-1ボーリングなどの基準ボーリングの層序と,既往の表層地質断面図を参考にした.断面図中に対比線を描く際には,東西断面と南北断面の交点にあるボーリングで海成粘土層の層準が一致していることを確認した.層準が一致しない場合は各断面図の海成粘土層の層準を再検討し,対比線を描き直した.
代表的な断面図 東西方向(1)~(8) 南北方向(A)~(E)
3.3次元モデルの構築
上町断層帯の表層地質構造の3次元モデル(サーフェスモデル)は,GISソフトの空間補間機能を用いて作成した.モデルの作成に用いたポイントデータは,ボーリング地点の座標(緯度・経度)と海成粘土層基底面標高(T.P.)からなる.座標はデータベースのボーリング地点情報を参照し,基底面標高は断面図から読み取った.ポイントデータ数は計2350点で,モデルを作成した層準はMa4~10層とMa12層である.
使用したGISソフトは,Esri社製のArcGIS, ver.10.3で,空間補間計算には自然近傍法を用いた.一般的に地層境界面の補間計算にはクリギング法や最適化原理を用いる場合が多いとされている.これらは配置が不均一で少ないデータ点から滑らかな曲面を計算する.しかし,これらの補間法では,計算に用いるサンプルデータの範囲(数)や曲面の滑らかさなどのパラメータを設定する必要があり,さらに曲面の傾向を予測することから地層の傾斜が側方で急変する部分で入力値を超える不自然な形状(オーバーシュートやアンダーシュート)が現れてしまうことがある.一方,自然近傍法はパラメータの設定を必要とせず,データ点を通り,入力値を超えない曲面で補間し,データ点域よりも外側の補間(外挿)をしない.ただし,データ点が偏在し,その密度と信頼性が低い場合には,不自然な形状が現れることがある.今回は傾斜が側方で急変することが予想される未知の表層地質構造を復元しなければならないことと,客観性と再現性を重視し,自然近傍法を採用した.
各海成粘土層基底面のサーフェスモデル 縦強調 ×20
上町断層帯表層地質のサーフェスモデル