道路斜面の維持管理におけるリスクコミュニケーションへの
3次元モデルの効果的な活用
大出 悟
<概 要>
現在、国土交通省は令和5年度までにBIM/CIM原則導入を目指し適応業務の拡大を進めており、本コンソーシアムもそれに合わせて3次元地質・地盤モデルの普及活動を行っている。今後、3次元地質・地盤モデルがさらに普及する中で、モデル上の情報の表現手法についても、より効果的な方法の模索が始まっている。
今回、道路斜面を対象に3D地形模型を作成し、プロジェクションマッピングによりその模型に斜面上のリスク情報を投影する方法を用いて、予想される災害について発注者と効果的にリスクコミュニケーションを実施した事例1)を紹介する。
・該当する建設ライフサイクル:「維持管理」
・該当する業務プロセス:「検討」結果の効果的な表現方法の検討
1.紹介事例の概要
落石発生履歴のある道路斜面において、数値標高モデル(DEM)や空中写真等の画像データを取得(図1-1)
→DEMの解析から得られた斜面の傾斜角度で色分けを行った傾斜量図を作成(図1-2)
→作成した傾斜量図を使用した机上の判読と現地確認から落石発生源を抽出
→不連続変形法(DDA)による落石岩盤・崩壊解析による落石シミュレーションを実施し、落石軌跡を傾斜量図中に表示(図1-3)
⇒より効果的にリスク情報を理解してもらうために、3D地形模型とプロジェクションマッピングを活用
図1-1 対象斜面の空中写真
図1-2 対象斜面の傾斜量図
図1-3 落石シミュレーション結果図
2.プロジェクションマッピングによるリスク表現の作業手順
①模型の作成
使用3Dプリンター:UP300(Tier Time Technology社製、熱融解積層(MEM)方式、PLA樹脂使用)
→最大造形サイズが幅25㎝、奥行き20㎝程度のため、モデルを3分割して出力し、組み合わせて1つの模型を作成
②展示ブースの作成
プロジェクションマッピングは周囲の照明量に大きく依存するため、遮光性を確保する展示ブースを作成
→打合せ等で使用することを前提として、運搬性を考慮した軽量な材料による折り畳み式の専用ブースを作成
③投影画像の制御
使用ソフト:MadMapper ver3.7(GarageCUBE社製、プロジェクションマッピング専用ソフト)
→動画データも投影できるため、落石軌跡の連続的な表現も可能
図2-1 展示ブースの概観
図2-2 プロジェクションマッピングによる3D模型への投影状況
(左から、空中写真、等高線図、傾斜量図、落石シュミレーション結果図、の順)
3.プロジェクションマッピングによるリスク表現を実施した効果
・落石の発生源として特徴的な地形や、落石軌跡が集中しやすい地形などの平面図から読み取りにくい情報が、
3D的な「面」として視覚的に理解でき、保全対象である道路との位置関係も連続的に認識できる
→予期される災害リスクを効果的に伝達でき、積極的で活発なリスクコミュニケーションの実施に役立てられた
・落石シミュレーションによる落石軌跡を動画で投影することで、落石が道路に飛び出す様子もはっきりと確認できる
→専門技術者以外でも対策工の効果を確認でき、対策工の規模・設置位置の検討等の場面で活用可能
・複数人数に対して同時にリスクコミュニケーションが可能になる
→リスクに対する共通認識の形成や、リスクや対策工の効果等の説明を行う時間・回数の減少等
の効果が期待できる
図3-1 リスクコミュニケーションの実施状況
4.今後の展望
・最近の豪雨災害では事前に公表されているハザードマップと実際の被災箇所が一致していた事例2)も確認されている。
→それでも災害時に人的被害が発生するということは、既存の平面的なハザードマップでは一般市民へのリスク周知として不十分である可能性。
⇒プロジェクションマッピング等を活用することで、より多くの人に効果的にリスクの存在を伝えるツールとなりえる。
・時間経過とともに災害が進行する様子等、3D+時間変化=4Dの表現もプロジェクションマッピングでは可能。
・地表面の情報は今回の方法で表現が可能だが、地表面より下の地質・地盤情報をプロジェクションマッピングで表現するためには、模型や投影方法
等を更に工夫する必要がある。
参考文献
1)柏原真太郎、杉山直人、西俊憲、武田茂典、仲井勇夫(2020)「3D模型を利用したプロジェクションマッピングによるリスクコミュニケーションの一例」 (技術フォーラム2020 web技術発表会)
2)山本晴彦、野村和輝、坂本京子、渡辺薫乃、原田陽子(2015)「2015年9月10日に茨城県常総市で発生した洪水被害の特徴」(自然災害科学 J.JSNDS 34-3 171-187)